沖縄 2

明日は休むと、会社に連絡を入れた。新入社員の私はまだ仕事を休んだことはなく、不安でソワソワした。

ホテルに15時くらいにチェックインして、私はまだ不安だった。それはもう、その時期背後霊のように何をしてもどこにいても私に付き纏ってきてたものだけど、うつろな旅の中盤、現実に意識が戻った時、また大きな波のように襲ってきた。彼はそんな私をおざなりに、まだ明るい部屋で盛っていて、海へ行く前にしよう、と言い出した。脈絡を無視する率直な性欲。しかし彼の誘いに乗りセックスしたら私はなぜかとてもハイになって、絶対に今から海に行きたい気持ちになったのでそのまま寝そうな彼を叩き起こし、シャワーもいいかげんに、タオルと着替えを持って急いで車を出してもらった。

 

忙しなく着いた夕暮れ前のその浜は島の影で少しひんやりし始めていた。橋のたもとにある、透明度が高いとても綺麗な自然のビーチ。地元の高校生くらいの男子グループと、家族ひと組しかいなくて、高揚した気分のまま、服のままで海に入った。セックスで火照り、疲れた体が心地よく解かれていくような感覚が気持ちよくて日が暮れるまで海に体を浸けていた。彼はやたら寒がっていて、なんだか急にダサく、守るべき存在に見えた。足元の珊瑚礁にもビビって私が浮いている場所までもなかなか辿りつかない。間抜けだった。あんなに不安だった色々もここまでくれば追いついてこなかった。うまく巻けた。はやさは大事だ。せかせかすることとは違う。私は悠々と海を楽しんだ。からだの気持ちよさと心の安らぎが直結している自分をおかしく、嬉しく思った。

 

濡れた服は道中のコインランドリーにぶちこみ、地元で人気の夜中までやっているドライブインに向かい謎の熱すぎるポタージュとサンドイッチで腹を満たし、服を回収してホテルに戻った。

 

彼は先に沖縄を出発した。関東の実家に帰るのだ。

私は次の日からまた仕事だった。一人残った空港で、暮れてゆく景色をじっくり眺めた。折坂悠太のトーチを繰り返し繰り返し聴いた。次第に寂しい気持ちが膨張しすぎて、漏れ出して景色が全部寂しく見えてきてたまらなくなり、kindleで後ハッピーマニアの新刊を買って貪り読んだ。

 

なんばを通過する頃には確か0時をすぎていてガラガラの電車の中で、大事な記憶を定着させるように旅の途中に助手席で描いていたスケッチを色鉛筆でざかざかと色付けした。気を失うように寝て、何食わぬ顔でまた出勤した。

星の人

 

金沢の郊外にあったそのラブホはとっても2人ぼっちという感じで心細い気持ちになったけど、下道で京都から6時間くらい運転し続けた彼はすっかりヘトヘトで、流石に何もせず寝た。

 

美術とか興味がない人だったけど、とりあえず21美とか行ってみたりして。私たちは展示を理解しようともせず、案の定早々に美術館を後にした。金沢から、福井勝山の恐竜博物館に行くのに、海側ではなく山側の道を選ぶと、初夏なのにまだ雪を被ってる白山がすごく綺麗に見えて、2人で久石譲のsummerを流してはしゃいだ。

 

星を見に、春から夏にかけてたくさん山に行った。クワガタが出るようなところ。真っ暗で、鹿がたくさんいて、やったら涼しい山の中。道中の心労はすごいけど、車から降りたらいっつも新鮮に感動した。田舎の実家のきれいな星空の何倍もきれいで鮮明な星空に感じた。

ガチ仕様の望遠鏡で写真を撮るから、そういう寂しい山の中に2人だけで結構長いこといるのだけど何してたんだろう。おしゃべりが止まらない人だった。私にとって彼のおしゃべりは面白くってしょうがなくて付き合う前もたくさんたくさんとりとめのないあれそれを喋った。夜型なんだよね、眠くなるといつも最後の方はあしらってた。

 

何もなくてもタイムズカーシェアで夜たくさんドライブをした。一番くじをしにコンビニをたくさん回ったり遠くのミニストップに行くだけとかマックのドライブスルーするだけとか。駐車場から彼の家まで歩く帰り道は街が寝静まった深夜や夜明け前ばかりだった記憶だ。

彼はいつも不安そうだった。不安にさせていた要因は私であったりもした。